福島県二本松市:ホットスポットも国の除染許可がおりずに、職員が対処する状況が続く-2018.6

2018年6月に訪れた福島県二本松市。原発事故から7年以上経ってもなお、人が多く集まる小学校の周辺、駅前、公共施設の脇など各所で、事故前の年間被爆許容値である1mSv(0.23μSv/h)を越える値を計測しました。 詳しくは下記の記事を参照してください。

福島県二本松市:小学校周辺や駅前などで依然として1mSvを越える値を計測-2018年6月3日

2018.06.12

これにあたって、二本松市役所に放射線量が高かった場所の除染の依頼と、事故後小学校周辺はどのような除染を行ってきたのかを電話で伺いました。 電話自体は二本松市を訪れた直後の6月中旬に行ったのですが、その後追加で行った質問の回答を待っていたため、報告が今日までずれこむかたちとなってしまいました。(追加質問の回答はいまだにきていませんが) 以下は、その電話で役所の担当の方が話された事をまとめたものです。

事故直後の二本松北小学校の線量と除染の方法

事故から一ヶ月後の二本松北小学校の校庭では、地面から1メートルの地点で3.16μSv/h(23年4月20日)であった(県が計測した値は、4月7日で3.5μSv/h)。その後二本松市が除染作業に入る前に計測した値は、2.33μSv/h(2011.8.25)。その後除染を実施し、表土をはぎ取ったあとの校庭の値は、0.39μSv/h(2011年8月)であった。 とにかく学校の線量を下げるために、除染に関する国の制度が固まるまえに二本松市として校庭の表土を5センチはぎ取った(平成23年5月から8月の中旬にかけて)。 その後、側溝や雨どいの堆積物、落ち葉がたまるような箇所の除染を、平成23年の夏休みから24年にかけておこなった。除染作業はどこも手一杯であったため,教員やPTAの人たちに協力してもらいながら二本松市内のすべての小中学校でおこなった。 また平成24年には、校庭に新しい土をいれ、庭など表土がはぎとれる箇所の除染や樹木の伐採をおこなった。プールも、プールサイドの平板のブロックの入れ替えて線量を下げて使用可能な状態にした。

小中学校における放射線量の管理の仕方

一通りの除染が終了した後は、各学校に線量計を一台ずつ配布し独自に学校の敷地内を定期観測してもらう体制をつくった。具体的には、市が除染した際に計測した箇所(校庭の真ん中、四隅、側溝)を月に二回(第二、第四木曜日)計測してもらい、除染直後の値よりも跳ね上がるようなことがあれば市の方に連絡してもらうようにしている。そして計測された放射線量のデータは各学校に保管してもらうようになっている。

0.23μSv/hを越える値への慣れ

このような体制を整えたが、いままでに学校から市の方に再調査の依頼(異常値が計測されたため)がきたのは数件ほどしかなく、そのどれも結果的には除染はせずに終わったとのこと。 学校から再調査の依頼がほとんど来ない理由として、もちろん計測値が跳ね上がるような事態が起こっていないこともあるが、市役所の方が私に「0.23μSv/hを基準にできるような状況にはまだない」と言っていたことからも伺えるように、除染後に0.23μSv/hよりも高めの値が計測されていても(北小学校の校庭は除染直後でも0.39μSv/h)そこから極端にあがらない限り許容範として受容されていることが考えられる。値そのものの危険性よりも、放射線量に対する感覚が優先されているとも言える。 また市役所の方は、「地表1センチよりも1メートルの方が高い場合もある。地面を除染してもまわりに影響される。」と言っていた。つまり線量が高い箇所をすることは難しいという意味であろう。

除染を行わない国、スコップホットスポットに対処する市の職員

また除染への取り組みとして、二本松市では車載できるホットスポットファインダーを用いて、一年間かけて全路線を測定している。 そこで見つかったホットスポットは記録をとり、国に除染依頼をする。しかしほとんどのケースでは、0.23μSv/h以上の場所であっても、「そこは24時間滞在する場所なのですか?」と問われ、除染の許可はおりないと市役所の方は言う。除染は国の管轄のため、許可が下りないと実施されない。その代わりに、市としては道路管理者に委託、あるいは市の職員みずから現場に赴いてスコップを用いて地面をひっくり返す「天地返し」を行って対処療法的な処置をする。応対してくれた市の方は「もうだいぶ慣れました」と笑っていた。 事故後に実施された除染は生活空間しかなされていないので、山林に近い道路などはそれなりの値がいまでも計測されるらしい。 それ以外には市民が測定してホットスポットを見つけ、市に除染依頼をするケースもあるが、これも同様にほとんどのケースで国の除染許可がおりないため、市として同様の対処をしているとのことであった。 この方法だと市役所の方も高い線量の場所の作業が続くことになるので被爆の影響を懸念すると、「事故直後は7μSv/hを越える場所で、長時間不眠不休で仕事をしていたので、麻痺してしまっているのかもしれない」と言っていた。

感想として

まず感じたことは、事故前であったら大騒ぎになっていたであろう値に対して、異常事態が常態化することによって感覚が鈍くなっているとうこと。これは市役所や市民(ひいては国民)を含め、どのセクターにおいても言える事。そして私も。(値が高い事が分かっているのに、マスクをしなかった) また除染が国の管轄であり、国の許可がないと除染が行われないということを恥ずかしながら初めて知りました。しかも値が高い場合も、「24時間滞在する場所ではない」としてほとんどのケースで許可が下りない。これを理由にされたら、たとえ自宅に庭がホットスポットであっても除染されないであろう。でも市役所の人たちは目の前に困っている住民たちがいて、なんとかしてあげたいという感情が働くから、身を挺してまでできることを最大限しているのだと思う。 除染をはねつける政府の役人も、スコップで天地返しする市の役人も同じひと。持ち合わせている共感の総量が同じであるなら、異なるのは普段関わる人の属性なのだと思う。市役所であれば窓口にいけば職員がすぐに応対してくれるように、役所内部だけでなく市民と直接関わる機会が少なからずある。でも国の官僚たちは、省内部や業界団体の関係者たちとの関わりが圧倒的に多いのでは?(私生活の中で、小学校の同級生以外に国家官僚にあったことがないので実態は分かりませんが)。 両者ともに人間に対する共感能力に差異はないけれど(そう信じたくもある)、それを発揮する対象がどの属性であるかが違うんだなと感じました。 もし追加質問の回答が二本松市役所の方からありましたら、こちらでまたご報告します。 現在、福島第一原発がどうなっているのか、除染政策や健康被害の実態などを網羅的にまとめた記事もありますので、よろしければご覧ください。 福島の現状

文責:渡辺嶺也