南三陸町のいま -復興事業の進捗 2018-

今回、約5年ぶりに宮城県南三陸町を訪れました。福島県で開催された保養相談会「ほよーん」に参加した後、すこし足を伸ばすかたちでの訪問です。

かさ上げ事業の進捗

東日本大震災によって15.5メートルの大津波に襲われ、町内全戸数の6割が全半壊した宮城県南三陸町。現在、地域全体の安全性を確保するという目的のもと、街全体を10メートルかさあげする復興事業が進行しており、10トンダンプカー60万台分に相当する土砂を運び入れ、その上に観光・商業施設を建設し、自然公園の造成を進めています。

南三陸町志津川に着くと、この地で海苔屋を営む「千葉のり店」の千葉公子さんが迎えにきてくれました。千葉さんとは、震災年の8月に知り合い、以後何度かお会いさせていただいています。震災直後、まだ瓦礫が残る志津川の旧店舗の土地にプレハブを立て、誰よりも早くお店を再開させたとてもパワフルな方です。今回、千葉さんにいまの南三陸町の状況をいろいろ伺いました。

居住できない、かさ上げ後の土地

まず驚いたのは、南三陸町ではかさ上げした土地への居住は許されていないということ。住民たちは、新たに造成された高台の土地に家を建てたり、復興公営住宅や復興戸建住宅に住んだりしています。
私はてっきり新たに盛られた土地の上に人が住み、元の生活を再現するのかと思っていました。岩手県の陸前高田市の場合は、かさ上げした土地への居住が計画されており、町によって様々のようですが、南三陸町の場合は、認められていないそうです。

“01”のプレビュー

南三陸町志津川の新たな町づくり計画

南三陸町では一部地域でかさ上げ工事が完了しており、「千葉のり店」が入っているさんさん商店街や工場、コンビニやそば屋、衣服店などの建物が既に出来上がっています。また街の中心を流れる八幡川の南側一帯は、「震災復興祈年公園」という名称の大規模な自然公園になる予定です。公園を作るためになぜ10メートルのかさあげが必要なのか、すごく疑問が残ります。(ちなみに、かさ上げ事業が組み込まれた土地区画整理事業は3県48地区で、総事業費は5363億円)
ちなみに土地に関しては、震災前に所有していた土地面積に準じて、新たに造成された高台の土地やかさ上げされた土地を割り当てられているそうです。

地元の人からみたかさ上げ事業

現在進められているかさ上げ事業と街づくり計画に関して、千葉さんも二つの面から疑念を抱いていました。

一つ目は、南三陸町の町民たちが住むエリアと商業エリアが別々の場所に位置していること。震災前、千葉のり店のお客さんの95%が地元の方でした。それが現在では80%が観光客になるなど大きく変化しています。しかし、千葉さんが言うには観光客は今後どんどん減ってくるに違いなく、いずれは地元のお客さん相手の商売に戻るようになる。そのときにお客さん(過疎化が進んでいるこの地域は高齢者が多い)たちがわざわざ足を運んでくれるか心配のようです。

二つ目は、自分たちの故郷がすべて土砂の中に埋まっていく事への心理的な抵抗です。

千葉さんと一緒に商店街の中にある写真館にはいったときのことです。その写真館は震災前の南三陸の写真や、津波にのみ込まれるときの様子、そして今日にいたる復興の様子を写真ギャラリーとして展示しているのですが、その中に震災前の町並みがごく一部ジオラマとして再現されていました。千葉さんはそのジオラマを長い間じっと見つめていました。写真館を出た後、「あのジオラマとてもいい作りだけど、通り沿いの窓が1カ所なかったわ」と笑いながら話してくれました。生まれたときからずっと暮らしてきた故郷の風景は、細部にいたるまで頭の中で思い浮かべることができるほど愛着がある。たとえすべてが瓦礫になってしまったとしても、小さい頃によく歩いた通りがあそこにある、と分かるだけでなんだか嬉しい気持ちになるそうです。だから土砂をいれてかさ上げせずとも、瓦礫だけ片付けてくれればよかったと言っていました。

国は、南三陸の新たな町づくり計画を作成する上で、南三陸町の住民たちにもヒアリング調査を実施しました。千葉さんもそういった会に参加することがあったそうですが、偉い大学教授さんたちと国が描いている計画が最初からあり、住民へのヒアリング調査は形式上行われているだけように感じたそうです。

地元の事業者が抱える課題

瓦礫がまだ残る中、誰よりもはやくお店を再開させ、震災年の10月には高台の土地を切り拓いて新しい加工場を建て、震災前の従業員5名を全員再雇用して海苔の加工を開始。仮設住宅に住みながら土日昼夜関係なく働き続け、仮設商店街を経て現在の「南三陸さんさん商店街」にようやく落ち着いた千葉さんたち。仮設住宅も引き払い、もう先が見えているからと新築は建てずに復興公営住宅に移り住んだ。仮設住宅のときよりもずっと快適だと言います。

ただ、これから先のことを考えるとあまり明るくないみたい。震災前は自宅と店舗が一緒であったためどちらも家賃はいらなかったけれど、いまは住宅とお店の両方で家賃がかかる。仮設商店街のときの賃貸料はほとんどかからなかったそうだが、現在のところにうつってからは賃料がかなり上がり、大変らしい。お子さんはおらず、甥っ子たちも海苔屋を継ぐ気はないそうで、後継者はいない。いまはいかに事業を徐々に縮小させていくかを日々悩んでいるそうです。

文責:渡辺嶺也

参考資料

【巨大防潮堤・大規模かさ上げ】東北被災地の土木工事のスケール感が半端ないので一度見に行くべき!【復興ツーリズム】

この記事はかさ上げ事業をはじめ巨大防潮堤建設など、東北沿岸部ですすむ復興事業を網羅的にまとめていて、わかりやすいです。